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連載育児小説“野郎のための妊娠ガイド” The Bloke’s Guide to Pregnancy

第7章「恐怖のとき」

04nishin01_07_001_thPART7 : FEEL THE FEAR

出産は夫婦の大イベント!
彼女が辛いときこそ僕がしっかり
しなくちゃいけないのに……

分娩室は覚悟して入れ!

出産に立ち会う男たちは、赤ちゃんが生まれる寸前、奥さんから今まで聞いたことのないようなキビシイ言葉で、ケチョンケチョンに罵られることになる。そんなまことしやかな伝説があるようだけど、実はこれ、まぎれもない真実。「彼女がこんなに汚い言葉を使うなんて」……そんな風にショックを受けるかもしれないけど、ショックはそんなレベルをはるかに超えるはず。だって、君はこの世に存在すらしない言葉で、攻撃を受けることになるのだから。でも君に反撃する権利はない。彼女が今被っている苦痛、苦難、災難のもとはすべて君。素直に酬いを受けなければいけない。

「あんたがいなければこんなひどい目に会っていなかった! 無性に腹が立って誰かを怒鳴りつけたい気分よ。ああそうだ! あんたはそこでボーっとつっ立ってるだけで何の役にも立たないんだから、あんたが攻撃の的になりなさいよ!」おとなしくて、いつも慎重に言葉を選んで発言していたはずの彼女。でもそのとき突然明かされる彼女のもう1つの顔……。

まさにそれは、ダークサイドに堕ちた、暗黒卿ダースベイダーのよう。そりゃあ愕然とするだろう。でも考えてもみなよ。彼女の子宮頸はすでに大きく拡がり、子宮は収縮をくり返して、赤ちゃんを誕生させるべくこっちの世界に誘導している真っ最中。君はあとほんの少しで父親になるんだ。ニッコリと笑顔でうなずいてあげないとダメ。「クソ! 後でなんて言って報復してやろう」なんて考えるなんてもってのほか。横に立っている助産婦さんだって、「大丈夫よ」とばかりに君にニヤリと笑いかけてくれるさ。でも、彼女は本心から言ってるわけじゃなくて(実際のところ、罵りはマジだったりするんだけど)、極限状態だから君を罵るなんてことになってしまったでのあって、「ま、仕方ないか」と水に流すくらいの器量が必要なんじゃない? もし君が彼女の言葉にムッとして、分娩室から出て行っちゃったりしたら、残された彼女はどんな気持ちになると思う? 君の最愛のパートナーは、今、まさに”恐怖“の時を迎えているんだよ。

彼女にふりかかる”恐怖“とは?

僕のパートナーのリサがそんな”恐怖“に襲われたのは、分娩第1期から2期への移行期だった。想像を超える陣痛の苦しみの助けになるものなんて、ちょっとした鎮痛作用のあるガスの吸入だけ。彼女はそんな状況に絶望してしまったんだ。

さらに「初めての出産だからきっと何十時間もかかるはず。それなのにまだ2時間しか経ってない!」、なんて風に思い込んでしまった。もうすでに限界なのにまだスタート地点。これがこの先果てしなく続くという恐怖に押しつぶされてしまった彼女は「何とかしてこの痛みを止めて!」と泣きだしてしまったんだ。

パートナーが激痛に苦悶する姿を見ていなければいけないのは、本当につらかった。リサは痛みに対して絶対に薬を使わないと決めていたんだけど、僕は見ているのがつらくて、もう少しで助産婦さんに鎮痛剤をお願いするところだった。こういう状況になったとき、君も彼女もどうしたらいいかわからなくなってしまうかもしれない。

パパ友のマックスの奥さんは常に少し大げさに騒ぎがちな人なんだけど、「いっそ死んじゃいたいわ! お願いだから死なせて! この苦しみから開放してぇ!」なんて感じで助産婦さんに泣きついたんだって。でも、こんな状況が来たってことは、君たちの夫婦の「妊娠」っていう長く曲がりくねった道がもうすぐ終わりってこと。君たち家族に新しいメンバーが加わりますよ、っていうサインだから安心していいと思う。(それどころじゃないだろうけど……)この段階は妊娠中期から始まった、彼女の毒々しい暗黒面が絶頂を迎えて大爆発するとき。ダースベイダーとルーク・スカイウォーカーがいよいよ対決、まさにクライマックスってとこだね。僕の友人、ビルとミシェルのケースがまさにその最たる例だ。

04nishin01_07_002彼らは最初、家庭分娩を希望してたんだけど、彼らの狭いアパートを見た助産婦さんが許してくれなかった。出入りが不便だし、もしものことがあったら大変だっていうのがその理由。ちなみにミシェルは、小さくて細くて人にも動物にもやさしく接する、どちらかというと穏やかな女性ってことは先に言っておく。

ミシェルは家庭分娩が叶わなくてとてもガッカリしてたんだけど、ビルが何とかなだめたんだ(納得してくれるまで数週間かかったそうだけど)。虫一匹殺せないやさしくて穏やかなミシェルは、家庭分娩を断念して病院での自然分娩に転向。

「これで良かった」とさえ思い始めた。分娩に関してはどんな状況になっても、どんな種類の鎮痛剤であろうとも断固として使わないと宣言していた。彼女の分娩は長くて大変で、いわゆる難産だったんだ。分娩の途中にビルが水を取りに一回外に出て戻ってきたときのこと。ビルがドアを開けて中に入ると、155cmほどの小柄なミシェルが助産婦さんを壁に抑えつけて、「早く麻酔をよこせって言ってんだよ、このアマ!」と、それはそれは恐ろしい妖怪のように叫んでいる光景を見てしまった!

でも、もう手遅れで、その段階で麻酔するのはもう無理だったみたい。ビルはその後、ミッシェルの暗黒面がまたいつ登場するかと、何週間も恐怖にさいなまれることとなったそうだ。まあ、被害者の助産婦さんは、ありがたいことに笑い飛ばしてくれたみたいけどね。彼女たちはそんなことは何度も経験してるし、もっと恐ろしい目にだってあっているから平気なんだって。


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