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産婦人科医編第一回
葛飾赤十字産院 竹内正人先生
妊娠・出産は、成熟した人間に成長するためのプロセス |
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●お産に対する考え方も
時代によって変化します
日本の経済が右肩上がりの時代は、「一生懸命受験勉強して、いい大学に入り、いい会社に就職できればしあわせになれる」というような共通の認識というか、レールのようなものがありましたよね。それが本当の意味でのしあわせな人生かどうかはともかく、そのレールに乗って生きていけば間違いない、というような。しかし今は政治は混迷しているし、経済は低迷する一方、ひと昔前のように一流企業に就職したから終身雇用で人生安泰というようなレール、神話は崩れていっています。
実は妊娠・出産についても、同じようなことが今起きているなと思うんです。お産のあり方って、これまでかなり画一的だったんですよ。昔はお産婆さんが産気づくと自宅にやってきて赤ちゃんをとりあげるという形がスタンダードでしたが、1950年代以降そういうお産は不衛生だしリスクが高いということで、病院での出産が主流になりました。そして「妊娠中はこう過ごさなくちゃいけない」「あれをしてはいけない」「お産のときはここでいきんで、そのあとこうしなくちゃいけない」など決められ、医師の指示どおりにしていれば無事に出産できる、と思って女性たちもそれに従ってきました。いわゆる医療側に管理されたお産ですよね。でも、最近になってどうもそういうお産が必ずしもベストなお産というわけじゃないのでは、と妊婦さん側も医療者側も気づいてきたのです。
妊娠している状態というのは、おなかの中で赤ちゃんが育つための環境づくりだと私は思います。たとえばつわりは、考え方によっては妊娠をきっかけに食生活を見直しましょうというサインともいえるし、おなかが張ってくる、めまいがするというのは少し休みなさいというサイン。妊娠すると夜眠れなくなったという人もいるけれど、それは赤ちゃんが生まれてから夜の授乳に対応するための準備かもしれない。そうやって少しずつ、これまで自分中心だった体をおなかの中にいる赤ちゃんにとっていい環境にするため、赤ちゃんの生活リズムに合わせていくため、妊娠中はさまざまな変化が体の中に起こってくるわけです。そういう変化を素直に受け入れることによって、今までにないような感覚というか、能力、可能性に出会えると僕は思うんです。そういう意味で妊娠・出産というのは、自分の体と向き合う期間なんですよね。それは女性自身が成熟していくための大切な時間だと私は思います。そういう女性にとってとても大切な妊娠・出産というものが、この30〜40年の間、医療によってある程度画一化されてしまいました。
● 医療の進歩でお産は
安全になったけれど、デメリットも
もちろん医療によって妊娠・出産は昔よりもずっと安全なものになり、お産でおかあさんや赤ちゃんが亡くなることはグッと減りました。超音波で赤ちゃんの状態がより早く正確にわかるようになったり、血液の検査などでトラブルが早期に発見できたりなどなど、医療技術の進歩によるメリットはたくさんあります。でも本来妊娠・出産というのは個人個人によって違う、すごくパーソナルなものなんですよ。それを医療の現場では、「こういうときは、こうする」というふうにすべて同じようなパターンで処理するために、デメリットも出てきたんですよね。そのうちのひとつが、赤ちゃんとおかあさんの絆が弱くなった、ということ。医療の進歩によってお産で赤ちゃんやおかあさんは死ななくなったけれど、そのあとの部分で問題が生じつつあるんです。
極端な言い方をすれば、医療で画一化されたお産は単純に子どもを産む行為になってしまっているというのかなあ。本来、妊娠・出産というのはそれだけじゃなくて、妊娠・出産という体験を通して、そこからいろいろなもの、たとえば母性とか母親として生きていくための力強さとか、が生まれてくるものだと思うんです。でも画一化されたお産で、医師にすべてまかせて「産ませてもらった」お産では、母親側にそういう力が育ちにくいんですよね。
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